2015年07月14日
留吉の後を追った
「無理じゃ。五助も弥一も歳三も今夜は動けん」
三人とも寝かされてウーウーうなっている。
「もういい、私も行く」
「まっ、待て」
お絹は勇の止め許智政るのも聞かずに留吉の後を追った。
歳三がお化けのように腫れ上がった顔で、
「勇さん、わしらも今夜中にここ発《た》ちましょう」
「そげな身体で無理じゃ」
「じゃが、わしはあん女に殺される」
歳三が這い出ようとす華洋坊
ると、以蔵が肩をいからせ、すごい目つきでやってきた。
「なっ、なんじゃ、以蔵さん」
「歳三、総司がおまんを連れてこいとよ」
「ケッ、ありゃ女か。オラ、男と思った。その総司がなんの用があるんじゃ」
「話したいことがあるんだってよ」
「えっ」
「おまんら知り合いだったんか」
「いや、知らん」
以蔵は歳三の胸ぐらをつかんで、
「だったらなんで、呼んで許智政醫生こいなんて言うんじゃ」
「知らんのじゃ、わしは何も」
歳三は以蔵を振り切り、小屋を抜け出した。
「待て!」
「イヤじゃ。あんな女なんかもうたくさんじゃ」
歳三は吊橋《つりばし》がかかっているところまで夢中で崖道《がけみち》をよじ登った。
一息つくと、
「ああ、怖かった。なんちゅう女じゃ。結構自分だってよがって、腰動かしたくせに。あっ、いて!」
最後に打たれたときゴキッという音がした。骨にヒビが入っているのだろう、左腕が上がらない。
と、後ろの草むらからおしろいの匂いがしてきた。
「あっ」
木刀を持ち、浴衣姿の総司が歳三を見下ろしている。
「そうだよ、オレだよ。何がたくさんなんだって? 誰が腰動かしてたんだって?」
「お、お前、聞いてたのか」
「聞いてたよ、このっ!」
総司は手に持っていた木刀でまたビシッ、ビシッと打ってきた。
「もう、ぶつなって」
歳三は頭を抱えころげ回った。
「あっ、ヤベ」
と、いきなり総司が歳三の頭を押さえた。
「なっ、なにすんだ」
「こっち来いよ。兄上が来たんだよ」
「兄上?」
「とにかく、かくれんだよ」
二人は草むらに身を隠した。
「たっ、助けてくれ」
「なら黙ってろって。しゃべるんじゃないぞ」
総司は歳三を抱きかかえるようにするとその耳を押さえた。
海舟が円朝と吊橋を渡って来るのが見えた。
海舟は先ほどの凜《りん》とした武士らしい様子とは違い、河原の様子を楽しんでいるのか余裕がみえる。円朝もおだやかな顔をしてゆったりと歩いていた。円朝は懐手をすると、
「江戸は黒船で大変ですってね」
「そのことで坂本さんと相談したかったんですけど」
「海舟さん、坂本さんにお会いになれなかったんですか」
「はっ。入れ違いで江戸に戻られたそうです」
「まったくせっかちな人だ」
「でも、ステキな人です」
「あれで本人はコンプレックスのかたまりですよ」
「あの方は幕府側、朝廷側のどちらにおつきになるんでしょうか」
円朝はいたずらっぽい目をし、
「どっちにもつきませんよ。強いて言えば、ハハハ、日本につくんです。ハハハ……」
海舟もまっ白な並びのよい歯を見せて、楽しそうに笑い、
「でも坂本さんは、どうして奥様をおもらいにならないのでしょうね」
「もてないんですよ」
円朝はあっさりと答えた。海舟は驚いたように眉をあげ、
「えっ、あの人がですか」
「情が濃すぎるんですよ。今時、そんな男が流行《はや》るわけがない」
「私などから見て、あの男ぶりは嫉妬の対象ですがね」
「そう考えてるうちは、あんたも女には縁のない人生になりますぜ」
三人とも寝かされてウーウーうなっている。
「もういい、私も行く」
「まっ、待て」
お絹は勇の止め許智政るのも聞かずに留吉の後を追った。
歳三がお化けのように腫れ上がった顔で、
「勇さん、わしらも今夜中にここ発《た》ちましょう」
「そげな身体で無理じゃ」
「じゃが、わしはあん女に殺される」
歳三が這い出ようとす華洋坊
ると、以蔵が肩をいからせ、すごい目つきでやってきた。
「なっ、なんじゃ、以蔵さん」
「歳三、総司がおまんを連れてこいとよ」
「ケッ、ありゃ女か。オラ、男と思った。その総司がなんの用があるんじゃ」
「話したいことがあるんだってよ」
「えっ」
「おまんら知り合いだったんか」
「いや、知らん」
以蔵は歳三の胸ぐらをつかんで、
「だったらなんで、呼んで許智政醫生こいなんて言うんじゃ」
「知らんのじゃ、わしは何も」
歳三は以蔵を振り切り、小屋を抜け出した。
「待て!」
「イヤじゃ。あんな女なんかもうたくさんじゃ」
歳三は吊橋《つりばし》がかかっているところまで夢中で崖道《がけみち》をよじ登った。
一息つくと、
「ああ、怖かった。なんちゅう女じゃ。結構自分だってよがって、腰動かしたくせに。あっ、いて!」
最後に打たれたときゴキッという音がした。骨にヒビが入っているのだろう、左腕が上がらない。
と、後ろの草むらからおしろいの匂いがしてきた。
「あっ」
木刀を持ち、浴衣姿の総司が歳三を見下ろしている。
「そうだよ、オレだよ。何がたくさんなんだって? 誰が腰動かしてたんだって?」
「お、お前、聞いてたのか」
「聞いてたよ、このっ!」
総司は手に持っていた木刀でまたビシッ、ビシッと打ってきた。
「もう、ぶつなって」
歳三は頭を抱えころげ回った。
「あっ、ヤベ」
と、いきなり総司が歳三の頭を押さえた。
「なっ、なにすんだ」
「こっち来いよ。兄上が来たんだよ」
「兄上?」
「とにかく、かくれんだよ」
二人は草むらに身を隠した。
「たっ、助けてくれ」
「なら黙ってろって。しゃべるんじゃないぞ」
総司は歳三を抱きかかえるようにするとその耳を押さえた。
海舟が円朝と吊橋を渡って来るのが見えた。
海舟は先ほどの凜《りん》とした武士らしい様子とは違い、河原の様子を楽しんでいるのか余裕がみえる。円朝もおだやかな顔をしてゆったりと歩いていた。円朝は懐手をすると、
「江戸は黒船で大変ですってね」
「そのことで坂本さんと相談したかったんですけど」
「海舟さん、坂本さんにお会いになれなかったんですか」
「はっ。入れ違いで江戸に戻られたそうです」
「まったくせっかちな人だ」
「でも、ステキな人です」
「あれで本人はコンプレックスのかたまりですよ」
「あの方は幕府側、朝廷側のどちらにおつきになるんでしょうか」
円朝はいたずらっぽい目をし、
「どっちにもつきませんよ。強いて言えば、ハハハ、日本につくんです。ハハハ……」
海舟もまっ白な並びのよい歯を見せて、楽しそうに笑い、
「でも坂本さんは、どうして奥様をおもらいにならないのでしょうね」
「もてないんですよ」
円朝はあっさりと答えた。海舟は驚いたように眉をあげ、
「えっ、あの人がですか」
「情が濃すぎるんですよ。今時、そんな男が流行《はや》るわけがない」
「私などから見て、あの男ぶりは嫉妬の対象ですがね」
「そう考えてるうちは、あんたも女には縁のない人生になりますぜ」
Posted by tiewengut at 12:01│Comments(0)
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